「うちの子、お友達の輪になかなか入れない…」 「ルールを守るのが苦手で、いつもトラブルになってしまう」 「自分の気持ちをうまく言葉にできなくて、かんしゃくを起こしやすい」
子育てをしていると、こうした対人関係やコミュニケーションに関する悩みに直面することがあります。特に、発達に特性のあるお子さんの場合、集団生活の中で「どうして上手くいかないんだろう?」と親子で悩んでしまうことも少なくありません。
そんな悩みに寄り添い、子どもたちが社会でより楽しく、自分らしく生きていくための「チカラ」を育むのが、ソーシャルスキルトレーニング(SST)です。
この記事では、放課後等デイサービスや児童発達支援の現場で、実際にどのようなSSTが行われているのか、その目的から具体的なプログラム内容、そして家庭でできることまで、徹底的に解説していきます。
そもそも「ソーシャルスキル」ってどんな能力?
SSTの「ソーシャルスキル」とは、一言でいえば「社会の中で他の人と円滑に関わっていくための技術(スキル)」のことです。
私たちは、ごく自然にやっているように見えるかもしれませんが、実は以下のような様々なスキルを無意識に使って生活しています。
- 挨拶や返事をする
- 相手の目を見て話を聞く
- 自分の気持ちや意見を伝える
- 順番やルールを守る
- 相手の気持ちを想像する
- 困ったときに「助けて」と言う
- 意見が違う相手と妥協点を見つける
これらのスキルは、生まれつき誰もができるわけではありません。成長の過程で、周りの人との関わりを通して、まるで自転車の乗り方を覚えるように、少しずつ練習して身につけていくものです。
発達に特性のあるお子さんの場合、このスキルを自然に学ぶのが少し苦手なことがあります。だからこそ、SSTを通して、一つひとつのスキルを丁寧に、そして楽しく練習していく必要があるのです。
SSTの目的は「叱られる経験」を「褒められる成功体験」に変えること
SSTの最大の目的は、単に「できないことをできるようにする」だけではありません。
子どもたちが対人関係で感じている「生きづらさ」を軽減し、自信を持って行動できるように支援することにあります。
集団生活で上手くいかない経験が続くと、「どうせ僕(私)なんて…」と自己肯定感が下がってしまいがちです。SSTでは、スモールステップで課題を設定し、「できた!」という成功体験をたくさん積めるように工夫されています。
叱られる場面が多かったお子さんが、SSTで学んだスキルを使い、友達や大人から「ありがとう!」「上手だね!」と褒められる。このポジティブな経験の積み重ねが、子どもの心を育て、新たな挑戦への意欲を引き出すのです。
【具体例で見る!】放課後デイ・児童発達支援のSSTプログラム
では、実際に施設ではどのようなSSTが行われているのでしょうか?「トレーニング」と聞くと堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、実際は子どもたちが「またやりたい!」と思えるような、遊び中心のプログラムがほとんどです。
ここでは、代表的なSSTの活動をカテゴリー別に詳しくご紹介します。
1.ゲーム形式で学ぶSST
子どもたちが大好きなゲームは、SSTの宝庫です。指導員は、ただ遊ばせるだけでなく、その中にたくさんの学びのねらいを込めています。
- 活動例:
- ボードゲーム・カードゲーム: UNO、トランプ、人生ゲームなど
- 集団遊び: ハンカチ落とし、椅子取りゲーム、フルーツバスケット
- 身につくスキル:
- 順番を待つ: 自分の番が来るまで我慢する力を養います。
- ルールを守る: 決められたルールを理解し、それに従って行動する練習をします。
- 勝ち負けを受け入れる: 負けても相手を称えたり、悔しい気持ちをコントロールしたりする方法を学びます。(「次は頑張ろうね!」という声かけなど)
- 報告・相談: 「あと一枚で上がりだよ!」と状況を伝えたり、「このカード出していいかな?」と相談したりする練習になります。
2.ロールプレイング(ごっこ遊び)で学ぶSST
特定の場面を想定し、役割を演じる「ロールプレイング」は、SSTの王道ともいえる手法です。安全な環境で、様々なコミュニケーションを予行演習できます。
- 活動例:
- お買い物ごっこ: 店員さんとお客さんになりきって、商品の注文やお金のやり取りを練習します。
- お友達への声のかけ方: 「仲間に入れて」「そのおもちゃ貸して」と伝える練習や、逆に言われたときの断り方(「ごめんね、今使ってるんだ」)などを練習します。
- 電話の練習: 欠席の連絡など、具体的な場面を想定して電話の受け答えを練習します。
- 身につくスキル:
- 状況に応じた言葉遣い: 場面に合った適切な話し方や声のトーンを学びます。
- 上手な自己表現(アサーション): 相手も自分も大切にする伝え方を身につけます。
- 問題解決能力: 上手くいかなかったときに「どう言えばよかったかな?」と皆で振り返り、より良い方法を考えます。
3.ディスカッション・話し合いで学ぶSST
自分の気持ちや他人の気持ちについて、言葉で確認し合う活動です。高学年向けに行われることが多いですが、幼児向けにも絵カードなどを使って行われます。
- 活動例:
- 気持ちを考えるワーク: 様々な表情の絵カードを見て、「この子はどんな気持ちかな?」「どんなことがあったと思う?」と話し合います。
- SSTすごろく: 「友達に悪口を言われたらどうする?」「嬉しいことがあったら誰に伝えたい?」といったマス目に止まり、自分の考えを発表します。
- グループディスカッション: 「遠足で楽しかったこと」「好きなゲーム」など、共通のテーマで話し合い、人の話を聞いたり、自分の意見を言ったりする練習をします。
- 身につくスキル:
- 感情の言語化: モヤモヤした気持ちに「悲しい」「悔しい」といった名前をつけ、言葉で表現する力を養います。
- 傾聴スキル: 人の話を遮らずに最後まで聞く姿勢を学びます。
- 視点の切り替え: 「自分はこう思うけど、他の人は違う考えを持っているんだな」と、他者の視点を理解するきっかけになります。
4.共同作業で学ぶSST
一人ではできない課題に、グループで協力して取り組む活動です。自然なコミュニケーションが生まれやすく、達成感を共有できるのが魅力です。
- 活動例:
- おやつ作り・調理実習: レシピを見ながら役割分担し、協力してカレーやクッキーなどを作ります。
- 大きな模造紙での作品作り: 季節の壁面飾りなど、大きな作品をみんなで作り上げます。
- 基地づくり・ブロック遊び: 段ボールや大きなブロックを使い、相談しながら秘密基地などを作ります。
- 身につくスキル:
- 協調性: 目標達成のために、自分の意見を主張するだけでなく、相手の意見に合わせることも学びます。
- 役割遂行: 自分の任された役割に責任を持って取り組む力を養います。
- 報告・連絡・相談(ホウレンソウ): 「こっち手伝って!」「次は何をすればいい?」など、作業を円滑に進めるためのコミュニケーションを自然に学びます。
家庭でもできる!SSTのヒント
SSTは施設だけで完結するものではありません。ご家庭での日々の関わりが、お子さんのスキルの定着を力強くサポートします。
- 「ありがとう」「ごめんね」をきちんと伝える
- まずは大人がお手本を見せることが大切です。ささいなことでも「〜してくれてありがとう」と具体的に伝えましょう。
- 気持ちを代弁・言語化してあげる
- お子さんが言葉に詰まっていたら、「〜されて悔しかったんだね」「〜ができて、すごく嬉しいんだね」と気持ちを言葉にしてあげましょう。自分の感情を客観的に捉える助けになります。
- 選択肢を与える
- 「どっちがいい?」「どうしたい?」とお子さん自身に決めさせる場面を作りましょう。自己決定の経験が自信に繋がります。
- できたことを具体的に褒める
- 「えらいね」だけでなく、「順番を待ててえらかったね」「お友達に優しく言えたね」と、どの行動が良かったのかを具体的に褒めることで、子どもは「次もこうしよう」と学習できます。
まとめ
ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、子どもたちが社会という海を航海していくための「羅針盤」や「船の漕ぎ方」を学ぶ、大切で楽しい時間です。
放課後等デイサービスや児童発達支援では、専門の知識を持った指導員が、一人ひとりの発達段階や特性に合わせて、遊びを通して無理なくスキルを習得できるよう支援しています。
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