我が子の「もしかして?」学習障害(LD)かも…?特徴や診断について詳しく解説します

「うちの子、勉強が苦手なだけだと思っていたけど、もしかして学習障害(LD)なのかな…?」 ひらがなを読むのに時間がかかる、文字を書き写すのがとても苦手、簡単な計算がなかなかできない…。周りの子と比べて、特定の学習でつまずきが大きいと感じたとき、親御さんなら誰でも心配になるものです。

この記事では、そのような悩みを抱える親御さんに向けて、学習障害(LD)の基本的な情報から、具体的な特徴、診断の流れ、そして家庭や学校でできるサポートについて、できる限り詳しく解説します。


学習障害(LD)とは

学習障害(Learning Disabilities、以下LD)は、全般的な知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」といった特定の能力の習得や使用に著しい困難を示す様々な状態を指します。

LDは、お子さんの努力不足や育て方の問題ではありません。脳機能の何らかの偏りやアンバランスが原因と考えられています。大切なのは、その子の特性を正しく理解し、適切なサポートにつなげることです。

LDは発達障害の一つに分類され、注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)などと併存することもあります。


学習障害の主な種類と特徴

LDには、主に以下の種類があります。お子さんの困難さがどのタイプに当てはまるか、または複数の特徴が見られるかなどを考える際の参考にしてください。

1. 読字障害(ディスレクシア)

文字を読むことに困難があるタイプです。

特徴的な症状例:

  • 文字を一つ一つ拾い読みするため、読むのに非常に時間がかかる
  • 単語や文節の途中で区切ってしまったり、逆に区切らずに読んでしまったりする
  • 読み間違いが多い(例:「め」と「ぬ」、「わ」と「ね」など似た形の文字を間違える)
  • どこを読んでいるのか分からなくなってしまう(行を飛ばしたり、同じ行を何度も読んだりする)
  • 文字が歪んで見えたり、重なって見えたり、動いて見えたりする(見え方には個人差があります)
  • 文章の内容を理解するのが苦手(読むことにエネルギーを使いすぎてしまうため)
  • 音読を嫌がる

2. 書字表出障害(ディスグラフィア)

文字を書くことに困難があるタイプです。

特徴的な症状例:

  • 文字の形をなかなか覚えられない、整った文字が書けない
  • 鏡文字を頻繁に書く(例:「さ」を左右反転して書くなど ※幼児期には誰にでも見られることがありますが、学年が上がっても続く場合)
  • マス目や罫線の中に文字を収めるのが難しい
  • 漢字の「へん」と「つくり」のバランスが極端に悪い
  • 句読点の使い方が苦手
  • 作文や感想文など、文章を構成して書くことが極端に苦手
  • 板書を書き写すのに非常に時間がかかる、または書き写せない
  • 書くことを極端に嫌がる

3. 算数障害(ディスカリキュリア)

算数・計算の理解や遂行に困難があるタイプです。

特徴的な症状例:

  • 数の大小や順序の理解が難しい
  • 簡単な足し算や引き算でも指を使わないとできない
  • 繰り上がり、繰り下がりの計算が苦手
  • 九九を覚えるのが非常に困難
  • 筆算の位を揃えられない
  • 時計を読むのが苦手
  • 図形やグラフの理解が難しい
  • 文章題の意味を理解して立式することが苦手

これらの特徴はあくまでも代表的な例であり、症状の現れ方には個人差があります。また、複数のタイプの困難を併せ持つことも少なくありません。


「うちの子、もしかして?」学習障害のサインに気づくポイント

お子さんの困難さに気づくきっかけは様々です。以下の点に注意して、お子さんの様子を見守ってみましょう。

年齢別の気づきのポイント

  • 就学前(保育園・幼稚園):
    • 言葉の発達がゆっくり(単語が増えない、二語文が出ないなど)
    • 絵本の読み聞かせに集中できない、文字に興味を示さない
    • 自分の名前の文字がなかなか読めない、書けない
    • 簡単な数え方やじゃんけんのルールが理解しにくい
    • はさみやクレヨンを不器用に使う
  • 小学校低学年:
    • 音読がたどたどしい、読み間違いが多い
    • ひらがなやカタカナの習得に時間がかかる
    • 文字や数字の書き間違いが多い(鏡文字、似た形の文字の混同など)
    • 簡単な計算がなかなかできない
    • 宿題に非常に時間がかかる、または嫌がる
    • 先生の指示が一度で理解しにくいことがある
  • 小学校高学年以降:
    • 長文を読むのが苦手で、内容を理解できない
    • 漢字を覚えるのが極端に苦手
    • 作文やレポートなど、文章を書くことが苦痛
    • 複雑な計算や文章題が解けない
    • 英語のアルファベットや英単語の読み書きにつまずく
    • 授業のノートを取るのが間に合わない、または内容が整理されていない

家庭や学校での様子のチェックポイント

  • 家庭での様子:
    • 宿題に取り組む際に、集中力が続かない、イライラしている、すぐに諦めてしまう
    • 音読の宿題を極端に嫌がる、または適当に済ませようとする
    • 「どうせできない」「勉強は嫌い」といったネガティブな発言が多い
    • 本を読むことを避ける
  • 学校での様子(先生からの情報):
    • 授業中、ぼんやりしていることが多い
    • 先生の指示が通りにくい
    • 板書を写すのが遅い、または写せていない
    • テストの点数が特定の教科だけ極端に低い
    • 友達とのコミュニケーションで、言葉の聞き間違いや言い間違いが多い

大切なのは、他の子と比べるのではなく、その子自身の困難さの程度や、本人がどれだけ困っているかに目を向けることです。


学習障害の診断

「もしかして?」と思ったら、まずは専門機関に相談してみることが大切です。

どこに相談すればよいか?

  • 学校の先生・スクールカウンセラー: まずは、普段のお子さんの様子を一番よく知る担任の先生や、学校に常駐または定期的に来校するスクールカウンセラーに相談してみましょう。学校での具体的な様子や、どのようなサポートが可能かなどの情報を得られることがあります。
  • 市町村の教育相談窓口・教育センター: 各自治体には、教育に関する相談窓口が設けられています。専門の相談員が話を聞き、必要に応じて専門機関を紹介してくれます。
  • 医療機関(小児科・児童精神科・発達外来など): LDの診断は医療機関で行われます。かかりつけの小児科医に相談するか、児童精神科や発達障害専門のクリニック・病院を受診しましょう。予約が取りにくい場合もあるため、早めに問い合わせることをおすすめします。
  • 発達障害者支援センター: 各都道府県や政令指定都市に設置されており、発達障害に関する相談支援や情報提供を行っています。
  • 民間の療育機関・相談機関: LDの専門家がいる民間の機関もあります。費用やプログラム内容などをよく確認しましょう。

診断の流れ(一般的な例)

医療機関での診断は、一般的に以下の流れで進められます。

  1. 問診(インテーク面接): 保護者から、お子さんの生育歴、家庭や学校での様子、困っていることなどを詳しく聞き取ります。お子さん本人から話を聞くこともあります。
  2. 心理検査・発達検査:
    • 知能検査(例:WISC(ウィスク)など): 全体的な認知能力や、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度といった項目ごとの能力を測ります。これにより、得意なことと苦手なことの差(ディスクレパンシー)や、LDの背景にある認知的な偏りなどを把握します。
    • 読み書き能力検査・算数能力検査: 学年相当の読み書きや計算の能力を客観的に評価します。
    • その他、必要に応じて行動評価尺度や視知覚に関する検査などが行われることもあります。
  3. 他の疾患や要因の除外: 視力や聴力の問題、他の精神疾患、環境的な要因などが学習困難の主な原因ではないかを確認します。
  4. 総合的な判断と診断: 問診、各種検査の結果、行動観察などを総合的に判断し、LDの診断基準(国際的な診断基準であるDSM-5などが用いられます)に照らし合わせて診断が行われます。

診断には数回の通院が必要になることが一般的です。

診断基準について

LDの診断は、アメリカ精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)』における「限局性学習症/限局性学習障害」の診断基準などが参考にされます。この基準では、適切な教育を受けているにもかかわらず、学習スキル(読字、書字、算数など)の獲得と使用に特異的な困難が6ヶ月以上持続していることなどが要件とされています。

診断を受けることのメリット・デメリット

診断を受けるかどうかは、ご家族にとって大きな決断です。メリットとデメリットを考慮し、専門家ともよく相談して判断しましょう。

メリット:

  • お子さんの困難さの原因が明確になり、親御さんや本人の混乱が軽減される
  • 適切な支援や合理的配慮を受けやすくなる(早期発見・早期支援につながる)
  • 学校や周囲の理解を得やすくなる
  • 本人の自己理解が深まり、前向きな気持ちにつながることがある
  • 同じような困難を抱える仲間や支援者とつながるきっかけになる

デメリット(または懸念点):

  • 「障害」というレッテルを貼られることへの抵抗感
  • 診断名がついたことによる本人や家族の心理的な負担
  • 周囲からの偏見や誤解を招く可能性(ただし、正しい理解を広める努力も重要です)

診断はゴールではなく、お子さんにとってより良いサポートを見つけるためのスタートラインです。


診断後のサポートと合理的配慮

診断を受けたら、お子さんの特性に合わせたサポートを開始していくことが大切です。

家庭でできること

  • 子供の特性を理解し、受け入れる: LDは本人のせいではないことを改めて理解し、できないことを叱るのではなく、できていることや頑張りを認め、褒めることを心がけましょう。
  • スモールステップでの学習支援: 一度にたくさんのことを教えようとせず、課題を細かく分け、一つ一つクリアしていく成功体験を積ませることが大切です。
    • 読字障害のお子さんへ:
      • 文字の形や音を結びつけやすい教材を使う(絵や音声が出るものなど)
      • 指で文字をなぞりながら読む
      • 分かち書きされた文章や、文字が大きな教材を使う
      • 読み上げソフトやアプリを活用する
    • 書字表出障害のお子さんへ:
      • 太めの鉛筆やグリップ力の高い筆記用具を使う
      • マス目が大きなノートを使う
      • 文字の形を覚えるために、なぞり書きや空書きを繰り返す
      • パソコンやタブレットの音声入力やキーボード入力を練習する
    • 算数障害のお子さんへ:
      • 具体物(おはじき、ブロックなど)を使って数の概念を教える
      • 図や絵を描いて問題を整理する
      • 計算の手順を声に出しながら行う
      • 電卓の使用を検討する(学校との相談が必要な場合も)
  • 得意なことや好きなことを伸ばす: 学習面で困難があっても、他の分野で才能を発揮することがあります。得意なことを見つけて伸ばし、自信につなげましょう。
  • 自己肯定感を育む声かけ: 「あなたはあなたのままで素晴らしい」「苦手なことがあっても大丈夫」「一緒に頑張ろう」といった肯定的な言葉で、お子さんの心の安定を支えましょう。
  • 生活リズムを整える: 十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、脳の働きを活性化させ、学習への集中力を高める上でも重要です。

学校で受けられる合理的配慮の例

学校教育法や障害者差別解消法に基づき、LDのあるお子さんに対しては、個々の困難さに応じた「合理的配慮」が提供されることになっています。学校とよく相談し、必要な配慮を求めていきましょう。

  • 学習場面での配慮例:
    • 教材の工夫(文字の拡大、ルビ振り、分かち書き、音声教材の利用など)
    • ICT機器の活用(タブレット端末、読み上げソフト、音声入力ソフトなど)
    • 板書の写真撮影許可、ノートテイキングの補助
    • 指示の出し方の工夫(一度に一つの指示、視覚的な提示など)
    • 個別指導や取り出し授業の実施
  • 評価(テスト)場面での配慮例:
    • 試験時間の延長
    • 別室での受験
    • 問題文の読み上げ
    • 解答方法の工夫(口頭での解答、パソコンでの解答など)
    • ルビの使用許可

これらの配慮は、お子さんの状況や学校の方針によって異なります。個別の教育支援計画(IEP)を作成し、具体的な支援内容を共有していくことが重要です。

専門機関による療育やトレーニング

医療機関や民間の療育機関では、LDの特性に合わせた専門的なトレーニングや指導を受けることができます。

  • 認知機能トレーニング: ワーキングメモリや注意力を高めるトレーニング
  • 読み書き算数のスキルトレーニング: 個別の困難さに合わせた指導
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST): コミュニケーション能力や社会性を育むトレーニング

これらのプログラムは、お子さんの発達段階や特性に合わせて行われます。


大切なこと:早期発見・早期支援と親御さんの心構え

LDは、その特性自体が「治る」というものではありません。しかし、早期にその子の困難さに気づき、適切なサポートを行うことで、学習上の困難を軽減し、二次的な問題(自信の喪失、学習意欲の低下、不登校など)を防ぐことができます。

  • お子さんの可能性を信じる: LDがあっても、適切な環境とサポートがあれば、多くのことを学び、成長していくことができます。お子さんの「できること」や「強み」に目を向け、その可能性を信じましょう。
  • 一人で抱え込まない: 悩みや不安を一人で抱え込まず、学校の先生、専門家、同じような悩みを持つ親の会などに相談しましょう。情報を共有し、支え合うことで、親御さん自身の心の負担も軽くなります。
  • 親御さん自身のメンタルヘルスも大切に: お子さんのサポートには、親御さん自身の心の安定が不可欠です。休息を取り、自分の時間も大切にしながら、無理のない範囲で向き合っていくことが大切です。時には専門家のカウンセリングを受けることも考えてみましょう。
  • 長い目で見る: お子さんの成長は一人ひとりペースが異なります。焦らず、長い目で成長を見守り、小さな進歩でも喜びを分かち合いましょう。

おわりに

学習障害(LD)の可能性を考えるとき、親御さんは大きな不安を感じるかもしれません。しかし、LDは決して珍しいものではなく、適切な理解とサポートがあれば、お子さんは自分らしく輝くことができます。

この記事が、LDについて知るための一助となり、お子さんへの理解を深め、前向きな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。もし、さらに詳しい情報が必要な場合や、具体的な相談をしたい場合は、ためらわずに専門機関の扉を叩いてみてください。あなたとお子さんをサポートしてくれる人は必ずいます。応援しています!